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負け犬の遠吠え 友の会シドニー支部

 

Sunday, May 28, 2006

其の17 トリアージ

(この記事は、2005年7月15日号の週刊ジェンタに掲載されたものに加筆修正したものです)
 ロンドンで同時多発のテロが起きた。BBC極東局に勤務していた初期の頃に、テムズ川の北側に住んでいたので、事故現場はいずれもかつての行動範囲だった。朝の通勤を経験しているだけに、通勤時間帯を狙ったテロ行為に激しい怒りを覚える。274もあるロンドンの地下鉄駅から、一体どうやったらテロを防げるというのか。

 このテロの被害の模様を伝えるシドニー・モーニング・ヘラルド紙(2005年7月8日付け)の2頁目の写真が私の目を射った。


 血まみれの重傷者に付けられた「プライオリティ3」のタッグである。まさに、これはトリアージと言われる負傷者選別が、救急医療班によってロンドンで行われていることを示す確かな証拠写真である。災害や事故が発生した時の初期医療のキーワードは、サーチ、レスキュー、メディカル・アシストのSRMであるが、負傷者の重傷度に応じて適切な措置や搬送を行うために、負傷者の治療優先順位をつけることがトリアージである。

 そもそもトリアージ(triage)とはフランス語なのだが、いい石炭を選り分けたり、良い羊毛を選んだりする選別作業を指していた。問題はこの選別の意識をどこにおくかにある。通常、第1順位は赤、第2順位は黄色、第3順位は緑で、生存の兆候のないものは黒のトリアージタッグを付けていく。日本でも、阪神大震災、中越地震やJRの尼崎事故などで、少しずつ定着し始めている。


 トリアージを行うのはすべてが医師である必要はない。インドネシアの津波災害時のように、被害が大きく広がれば、医者が選別を行っている暇はない。しっかりした医療知識を持った人で、事故や災害の弱者の「老人、婦人、病人、子ども」という概念が頭の中にたたき込まれていれば、誰がトリアージを行ってもよいのである。

 では、この方法に問題点はないのか。

 仮に黒のタッグを付けられた人の話をしよう。黒が付けられたということは、必ずしも完全に死亡と判定されたわけではなく、だいたいが助かる可能性がないと現場で判定された場合が想定されるのである。ある人によって命の選別が、瞬時に行われる怖さが、このトリアージに含まれていると思わないだろうか。助かりそうな人を助け、助かりそうもないと判断された人は放置されることにつながりかねない。もしそこに安易な思想があるなら、それは断固排除しなくてはならない。まかり間違えば、多くの人の尊き命を救っていこうという崇高な理念とは相反する行為をすることになるのである。まさに野戦病院的判断がまかり通ってはならないと考える。

 多くの瀕死の重傷者をいち早く一人でも救っていこうというトリアージのプラスの職業意識が、もしあのJR西日本の社員に根付いていたなら、鉄道事故史上最悪の事故として残る「尼崎大事故」の日に、ゴルフや飲み会、ボーリング大会などに興じていられるはずもないのである。

 トリアージは、生と死の境にいる人にどうしたら最高の医療を施して救命できるかの生命尊重の視点が欠落しているなら、まことに恐ろしい限りである。

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